中華パワーメーター、XCADEY 社の X-POWER は果たして使えるのか? 今回は取り付けとキャリブレーションを行います。また、ZWIFTの擬似パワー値であるZPOWERとの比較を交えてX-POWERの使い道について考察します。
はじめに
みなさんおはようございます。
ここでは前回の記事に引き続き、パワーメーターについてのお話をいたします。
この記事から読み始めたかたは、上のリンクから前回の記事を是非読んでくださると幸いです。
まずは校正から
前回はX-POWERのファームウェア・アップデートまで終わりました。
そうなると次はパワー値の校正(キャリブレーション)をしなければなりません。
パワーメーターの仕組み
まずパワー値の校正とは?
というお話ですが、要はゼロ点補正のことです。
いわゆるスロープ補正のような校正はできません。スロープ補正はおそらく工場で行っているのでしょう。
(以下、校正に関しての簡単な説明です。興味のない方はこの章は読み飛ばしてください。)
校正についての小話
X-POWERのようなクランクアーム型パワーメーターは、人間がペダルを踏んだときのクランクの歪みによってパワーを測定します。
より詳しく説明すると、クランクに取り付けられたパワーメーターには「曲がると電気信号を発する電子機器」が内蔵されています。(これをストレインゲージといいます。)
(ゆがみセンサーとも呼ばれます。)
つまり、クランクが曲がるとストレインゲージも同じように曲がって、電気信号が流れます。
そしてクランクが曲がれば曲がるほど、この電気信号は大きくなるので、この電気信号の大小によってパワー値の変化を測定することができるというわけです。
しかしご存知の通りクランクは合金製なので、力いっぱいペダルを踏んだところでグニャグニャ曲がるわけではありません。
(もちろん、ロードレースのプロ選手のように1000kW代でグイグイトルクをかければそれなりに曲がりますが、そのレベルまで曲がらないと歪みを測定できないようではパワーメーターとして欠陥品もいいとこです。)
よってパワーメーターは低トルク下のμm, mm単位の微妙な歪みによる微弱な電気信号も検出できる性能をしているので、クランクのちょっとした剛性の変化で大きな誤差を生んでしまうことになります。
ここで、物質の剛性はその温度によって変化するので、
気温が高い日はクランクの温度も上がる
=トルクをかけたとき、クランクの金属がより曲がりやすくなる
=ストレインゲージも曲がりやすくなり、より大きな電気信号が流れる
=パワーの計測値が実際よりも大きく表示されてしまう
という結果になってしまうのです。
したがって、パワーメーターを使用する前に、「パワーメーターにクランクの温度を覚えさせる ( = 今日の気温だとどのくらいクランクが曲がりやすいのかを教えてあげる)」という作業を行わなければ、正確なパワー値が測定できないというわけです。
これがパワーメーターの校正です。
(もちろん温度以外のセンサーでも色々調整していますが、イメージとしてはこんな感じです)
X-POWERの校正方法
X-POWERのパワー値の校正は、XCADEYの公式アプリを使って行います。
iOS , Androidの両方のストアにてダウンロード可能です。
このCalibrationボタンを押すと校正が開始されます。
と、その前に
前回の記事で紹介したように、X-POWERにはこんな紙切れ1枚の説明書が同梱されています。
ここに校正のときの概略図が描かれています。
どうやらキャリブレーション時には、クランクを地面に垂直に立てなければいけないようです。
気になって他社のクランク型パワーメーターの校正のやり方を調べてみますと、
↓こちらがSHIMANOのパワーメーターのユーザーマニュアルです。なにやら同じようなイラストがありますね。
志摩のパワーメーターでも同様に、クランクを垂直に立てる必要があるようです。
チェーンが大小どちらのフロントギアに掛かっていても校正に影響はないというありがたい情報まで載っています。
SHIMANOは詳細なユーザーマニュアルに加えてショップ向け説明書もホームページでDLできるようになっているのでありがたいですね。
と、いうわけで実際に校正していきます!
説明書通りにクランクを立てます。
アプリのキャリブレーションボタンを押すと校正が始まります。
15秒もかからず校正が終わりました。 この手軽さなら毎回やってもそこまで手間ではないですね。
X-POWERの校正の精度について
まだ私はX-POWERを使い始めて日が浅いので他のユーザーの方々のレビューを参考にすると、
「 X-POWERは他のメーカーのパワーメーターと比べて、(安価なぶん)温度補正が甘い」という話がちらほら聞こえます。
使う側としては、校正は毎回乗る前に1回だけやればOK!というのがベストですが、
走行中にだんだんゼロ値がズレてきて、休憩のたびに校正し直し!となると少々面倒です。
基本的に他社のパワーメーターは校正後に多少の温度変化があっても自動的に補正してくれます。しかしどうやらX-CADEYはこの自動補正が比較的苦手なようです。
「(気温の低い)朝に校正をしてから出発して、(気温の高い)昼になったらパワー値が実際よりも大きく出るようになってしまった」という噂もあります。
しかし真偽は不明なので、私もこれから何度か検証してみて、来月あたりに検証結果でひと記事書いてみようと思います。
(追記:2019/05/18)
合わせてお読みください。
(追記ここまで)
サイコンに繋いでみる
XCADEYの公式サイトでは、動作確認された他社メーカーのリストが公開されています。
大御所であるCATEYE, GARMIN, bryton, 加えてZwiftを抑えているあたり中々やりますね。
私のサイコンはLEZYNEなので、この中にリストされていませんが、果たして接続できるのでしょうか?
私のサイコン、LEZYNE MEGA XL GPS です。
最大駆動時間 48時間の超長持ちGPSサイコンです。
しばらくの間、 GPSサイコン界隈ではバッテリー持ち最強のサイコンでした。(最近CATEYEからアベントゥーラという駆動時間80時間のGPSサイコンが出ましたね)
さて、このMEGA XL GPS で X-POWERを認識してみましょう。このサイコンはBluetooth LE と Ant+に対応しています。
通信規格の小話
余談ですが、LEとは Low Energyの略です。
Bluetooth (以後BT) は大手企業が共同で開発したワールドワイドな規格ですが、
昔のBTは消費電力が大きく、自転車のサイコンのように長時間通信し続ける系のデバイスにはあまり向いていませんでした。
そこでガーミンが開発したのがAntで、これは超低消費電力がウリの通信方法でした。
ライフログ・フィットネスのデバイスや医療器具などの一日中通信し続ける機械にぴったりです。
後追いでBTもBLEという超低消費電力型のBTを開発したことで、サイコン業界にはAnt+とBLEの二大通信規格が立ち並ぶことになりました。
BLEは登場時はBluetooth Smartという名前だったので、こちらの方が馴染みのある人も多いかもしれません。
最近はBTEの方がAntよりも勢いがあります。
何と言ってもBTはスマホと接続できるので、サイコンやパワーメーターの規格としてこれからの主流になっていくでしょう。
BTとANT どちらで接続する?
X-POWERとスマホの校正アプリはBTでのみ接続できます。
なぜならスマホ自体がBTしか対応していないからです。
では、X-POWERとLEZYNEではBLEとANTのどちらで接続すれば良いのでしょう?
X-POWERにボタンはないので、電池蓋を何回か開け閉めすることでBLE⇄ANT が切り替わります。
他の方々のブログの情報では、
「電池を外してから2秒以内に取り付けるとBLEモード(赤ランプ点灯)」
「電池を外してから3秒以降に取り付けるとANT+モード(赤ランプ点滅)」
となるそうですが、
私のX-POWERはなぜか点滅ランプしか光りません。
しかしその状態でスマホに接続できているので、BLEは飛ばせているようです。
そこで、MEGA XL GPSを使ってこのX-POWERに何が起こっているのかを調べます。
MEGA XL GPS はBLEの受信モードとANTの受信モードを切り替えることができます。
・BLE受信モード
・ANT+受信モード
これを利用して、
「現在X-POWERがどちらの電波を発信しているか」を識別する狙いです。
まずはMEGA XL GPSをBLE受信モードにしてみます。
接続されました。どうやら現在のX-POWERの送信モードはBLEのようです。
このまま電池蓋を開け閉めせず、今度はMEGA XL GPS側の受信モードをANTに切り替えてみます。
X-POWERからはBLEで電波が発信されているので、おそらく接続されないはずですが・・・。
あれ・・・?
デバイス名は微妙に違いますが、接続できてしまいました。
ペダルを回してみても、普通に認識されています。
<とりあえずの結論>
よくわからなくなってきたので、
(最近の)X-POWERは、通信モードを切り替えなくてもBLEとANTの両方を発信することができる。
ということにしておきます。
もしこの謎が解けたらまた記事にします。
ZEIFTに接続してみる
まずはパワーメーターとして接続してみます。
接続されました。
ANTで接続したつもりですが、BLEとして認識されていますね。やはり接続方式の切り替えはよくわかりません。
続いてケイデンスセンサーとしても接続してみます。
こちらも接続されました。
BTマークの下に電波状況を示すアンテナマークが表示されています。
こうして、パワーメーター・ケイデンスセンサーの両方として同時に接続することができました。
他の方の以前の記事だと、
「BTモードだとパワーメーターかケイデンスセンサーのどちらかとしてしか認識されないのでANTモードで接続すべし」
というように紹介されていましたが、
今回BTモードで両方同時に認識できているあたり、やはりX-POWER側の通信方式のシステムが改良されたと考えられます。
もちろん漕ぎ始めると両方のステータスが表示されます。
ZPOWER と 真のパワー値の比較
ZPOWERとは?
私は今まで、通信機能のない固定ローラーや3本ローラーを用いてZwiftを行ってきました。
当然、実際のパワー値を測定することはできません。
そこでZWIFTのZPOWERという擬似パワー計測システムを、トレーニングの指標としてきました。
「ZPOWER」を簡単に説明すると、
自転車に取り付けたスピードセンサー&ケイデンスセンサーの値をZWIFTに送信し、事前に登録しておいたローラーの製品ごとの回転負荷値と組み合わせて、擬似的なパワー値を算出したもの
です。
もちろん本当のパワー値ではありませんが、それなりにそれっぽい値になります。
本当のパワー値とどう違うのか?
今回は、このZPOWERと、X-POWERのパワー値を比較してみたいと思います。
比較方法は以下の通りです。
(今回の比較は全て3本ローラーで行います。固定ローラーはローラー自体の回転負荷値が大きく、正しく比較できなくなるため。)
① 今まで通り、 ZWIFTにスピードセンサーとケイデンスセンサーを接続して、ケイデンス100rpmで漕いでZPOWERを測定する。
⇄
②次に、センサー類を外してX-POWERでパワー値を計測する。この時のギア比、ケイデンスは①と同じ条件に合わせる。 測定値はLEZYNE MEGA XLで表示させる。
⇄
③ついでに、②の条件でMEGA XL GPSではなくZWIFTの画面に表示させてみる。
⇄
この方法によって、ある程度正確な比較をすることができるはずです。
結果
① ZPOWER
適当に、50-17 Tのギア比で 100 rpmにして漕いでみます。
およそ200WというZPOWERになりました。
このZPOWERは、基本的にこのギア比とケイデンスで漕ぎ続けている限り、ほぼ変動することがありません。
例えば、使う筋肉の部位を変えてペダルにかかるトルクが変化しても200Wのままです。
②
同じ自転車で同条件にして比較するため、まずローラー用のDIVEGEにX-POWERを取り付けます。
と、その前にクランクアームの交換をしなくてはなりません。
X-POWERのグレードはR8000系 ULTEGRA、DIVEGEのコンポはR4700系 Tiagraです。
(直前に泥の中を走っており洗車前の写真なので、BB周りがとんでもなく汚れています。お見苦しい写真で申し訳ありません。)
X-POWERの測定結果をMEGA XL GPSで表示させてみましょう!
まずは漕ぎ出し。
(3本ローラー上で両手放しで撮影しており、ブレブレ写真となっていますががご容赦ください。)
先ほどと同じギア比で、 110 rpmで 204Wです。ZPOWERとほぼ同じ値ですね。
しかし、漕ぎ続けていくとほぼ同じケイデンスであるのにも関わらず、166Wまで落ちてしまいました。
ケイデンスはあまり変わっていないのに、パワー値だけぐんぐん下がっていきます。
5秒も経たないいうちに138Wまで落ちてしまいました。ペダリング自体は変えていません。
少しギアをあげてみます。50-15T にしてまた少し力を込めて踏むと、
96 rpmで200Wに戻りました。ZPOWERの値や、漕ぎ出しのパワー値とほぼ同じ値です。
しかしこのギア比でも同様に、時間経過とともにパワー値が下がっていきました。
パワー値が下がっていく理由
この理由は単純明快です。
・ZPOWERは自転車のスピードとケイデンスだけをみているのに対し、
・本物のパワー値はペダルを踏む時のトルクをみている
からです。
3本ローラーは固定ローラーとは違い負荷が小さく、漕ぎ続けることで慣性が働くので、同じスピードを維持するのに必要なパワーがどんどん小さくなっていきます。
これは実走により近い状態ですね。
ZFIFTでは、同じケイデンスで回している限り、筋肉的に休むペダリングをしようとZPOWERは変化しません。
しかし本当のパワー値は、足の力を弱めればそれだけパワーが落ちていきます。
真にパワートレーニングをするには、後者のパワー値を用いなければいけません。
やはり、ZPOWERでは曖昧な値しか表示されないということがわかりました。
R4700系 Tiagraの小話 (余談)
今回私が購入したX-POWER(R8000系 ULTEGRAクランク)と、R4700系Tiagraのクランクに、はたして互換性はあるのでしょうか?
実は、全く問題なく取り付けられました。 クランクの軸の規格は変わっていないようです。
(今回はうまくいきましたが、SHIMANOは昔の規格をあっさり切り捨てる傾向があります。私は、過去の規格と互換性を持たせることによって性能が落ちるくらいなら、互換性は切り捨てる!というSHIMANOなりの意思表示だと思っています。)
R4700 は一応型番としては現行のTiagraですが、シリーズとしては現在のRx000系コンポよりも一世代前にあたります。
R4700系 Tiagraのチェーンリングはかなり異質な特徴を持っていることで有名です。
なんとこのR4700系は、ロード用チェーンに対応しておらず、MTB用のチェーンを使わなくてはいけない という驚きのチェーンリングをしています。
つまり HGチェーンではなく、HG-Xチェーンを使用しなければ変速性能が落ちたり、チェーンリングが余計に削れたりする可能性があります。
(私自身、このことを知らずに普通にHGチェーンを使っていた時期もありましたが、特に気づくほどの異変はなかったのであまり気にしなくても良いのかもしれませんが。)
(余談ここまで)
③
一応、ZFIFTにもX-POWERを認識させて50-17Tでケイデンス100rpm付近で漕いでみましょう。
(またしても写真ブレブレですが・・・。)
(画面右側は私の名前が表示されてしまうのでカットさせていただいております。)
漕ぎ出しは260Wと出ました。発進するときが一番クランクにトルクがかかります。
ペダリングが安定していくにつれ、徐々にパワー値が落ちてきます。
最終的に、150Wあたりで安定しました。
安定したとは言え、ZPOWERのようにずっと一定の値になるという訳ではなく、ペダルを踏む微妙な力加減の変化で刻一刻とパワー値は上下します。
結論
ZPOWERと真のパワー値はお互いに比較できる関係ではなく、
・ZPOWERはトレーニングにおける相対的ペースメーカー
・パワー値はクランクにかかるトルクの絶対値
であることがわかりました。
本当の意味で強度を定めたパワートレーニングをするためには、ZPOWERではなくパワーメーターでパワー値を測定しなくてはいけません。
しかし一概にZPOWERが悪いという訳ではなく、ペース走などを長時間行う時はZPOWERの方がペダリングの目安にしやすいのでトレーニングに優れているでしょう。
本当はX-POWERのパワー値と、他の高価なパワーメーターの値との誤差も調べてみたかったのですが、他にパワーメーターを持っていない私ではデータが取れませんし、上で示したようにZWIFTと比較することも無意味なようです。
しかし今回の検証のあとに1時間ほど漕いでみて、表示されたパワー値は、私の脚力から考えても妥当な値でしたし、
しっかりと踏み込むと500W以上も測定されていたので相対的なパワー値としてはある程度信頼できそうです。
パワーの絶対値としては、高級パワーメーターと比べて5〜10Wくらいの誤差があるかもしれませんが、
ロングライド中に「平地はこのくらいのパワーで維持しよう」とか「疲れてきたから前半よりパワー落ちてきてるな」というように相対的評価をする上では問題なく使えそうなので、私の使い方としては合格点なパワーメーターです。
おわりに
今回はXCADEYのX-POWERについて色々レビューしてみました。
まだ室内でローラーを回した程度なので、実際に外で走ってみるとまた違った発見があるかもしれません。
実走後のレビュー編もそのうち投稿いたしますので、XCADEYのパワーメーターが気になっている方は是非記事の更新をお待ちください。
それでは記事をここまで読んでくださった全ての皆さんに、
ありがとうございます!またお会いしましょう!
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