後編です。GRAILのタイヤをWTB exposure 30 という日本未発売のチューブレスレディタイヤに交換しました。TLRタイヤ交換に必要なものの紹介と、多くの人がつまずくビード上げの方法について解説します。
はじめに
前回(昨日)の記事↓
で、チューブレスレディタイヤに交換するまでの経緯をお話しました。
この記事は予告通り、昨日の記事の続きとして
・シーラント、チューブレスバルブ、その他必要なものについてのお話
・チューブレスレディタイヤの取り付け
(取り付けの失敗ケースと成功するコツ)
・実走インプレ
の3トピックについて解説していきます。
チューブレスレディタイヤ交換に必要なもの
TLR対応タイヤ
まずはタイヤです。
このWTB exposure 30というチューブレスレディタイヤの詳細は前回の記事で説明した通りです。
トレッド面をもう一度近くから観察してみます。
本当にツルツルです。
グラベル寄りのロードタイヤのつもりで購入したのですが、実物を見たところ転がり抵抗を低くした決戦用タイヤのような印象を受けます。
ちなみに重量は 310 g です。
タイヤ幅 700x30C かつ チューブレスレディ対応 のタイヤとして考えると普通に軽い部類にあたります。
ちなみにロード乗りから不動の人気を誇るCONTINENTAL社の新モデル、
GP5000 TL の重量は
・700×25C : 300 g
・700×28C : 345 g
・700×32C : 370 g
となっています。グランプリのタイヤは2mmほど実測幅が広いので、ここで比較する対象は 700×28C です。
このタイヤは345 gとなっており、exposure 30よりも重いことがわかります。
ちなみに、TLではない普通のGP5000の重量は、700×28C : 235g です。
チューブの有無の重量差を考えても、チューブレスにしたからといって軽量化に繋がる訳ではなさそうですね。
さて、次にいきましょう。
サイクルスタンド
メンテスタンドです。
タイヤを外して行う作業なのでエンド部保護のため、自転車をひっくり返すかスタンドを使うかのどちらかを選びます。
(実は、到着時から私のGRAILにはエア抜きに少々の懸念事項があるので、再ブリーディングをするまであまりひっくり返さないようにしています。)
ちなみに、このスタンドはメンテナンス用ではなく、MINOURAのバイクタワーというストレージスタンドです。
(2段目にマウントしているのはFUJIのミニベロ、HELION Rです。)
今までリアホイールはクイックリリース車しか乗ってこなかったので、スルーアクスル対応の固定スタンドもそのうち買わなければいけないなと思っております。
チューブレスバルブ
チューブレスやチューブレスレディのホイールにはチューブレスバルブが必要です。
丸型や四角型など色々な形状がありますが、
基本的にどの形状でも構いませんが、ホイール付属のメーカーのものを買っておけば間違いないです。私のGRAILには残念ながらバルブの付属はありませんでしたが、今回はDT SWISSのホイールということでそのまま同じ会社で純正品がありました。ラッキーです。
あと重要なのが、バルブの長さです。
ホイールのリムハイトを考えて買わないと、バルブ穴ギリギリの長さになりかねないので注意が必要です。
GRAIL CF 7.0 の完成車ホイール:DT SWISS C1850 SPRINE のリムハイトは23 mmなので、今回私は余裕を持ってバルブ長 53 mmを選択しました。
ポンプ
今回は、今までも使っていた普通のフロアポンプを使いました。
本当は、空気をタンクに圧縮してから放出する高圧タンク付きポンプであることが望ましいです。
タンク付きだと後述のビード上げが超楽勝らしいのです。
正直チューブレスタイヤ交換で難しいのはこのビード上げだけなので、このポンプさえあればなんの問題もなしに交換ができてしまうのでしょう。
私も次回はスペシャライズドのエアータンク(7000円ほど)を購入しようと思っております。
シーラント & 石鹸 (orタイヤワックス)
チューブレスレディの必需品、シーラントです。
シーラントは空気に触れると硬化する天然ゴム製の液体です。
シーラントをタイヤの内部に入れておくことで、
・タイヤとリムの隙間を埋めて、空気が漏れるのを防いでくれる。
・小さなパンク穴なら内側からすぐに埋めてくれる。
という超便利アイテムです。
チューブレスレディタイヤはリムとの間に隙間ができる前提の作りをしているため、シーラントは必須です。
ちなみにチューブレスタイヤはリムとの気密性が確保されているタイヤなので、基本的にシーラントは不要です。
しかし、前述の耐パンク効果や長時間経過後の空気圧低下を防いでくれるので、基本的に入れておくと良いと思います。
デメリットらしいデメリットも重量微増とベタベタ感程度のものなので、個人的には入れ得です。
今回選んだシーラントはザ・ド定番のSTAN's NO TUBEのシーラントです。
他にもカフェラテックスやシュワルベものとも迷いましたが、レビュー数が段違いなので今回は定番品を選ぶことにしました。
(ちなみに、フィニッシュラインが販売している非ラテックス系シーラントは評判があまりにも良くないので買う際はご注意を。)
石鹸は石鹸水にして使います。使い方は後ほど。
TLR対応ホイール & チューブレスリムテープ
前述の通り、このホイールには元からチューブレス用リムテープが貼ってありました。
通常、チューブレス用のリムテープを貼ったあとはバルブ穴を開けます。
GRAILの完成車はチューブドの状態で届くので、今回は元からバルブ穴が開いていました。
もし新しいチューブレスリムテープに交換した場合は、ドライバーのような尖ったものでバルブ穴を開ける必要があります。
TLRタイヤの取り付け
さあ、いよいよ取り付けていきます。
チューブレスバルブ取り付け
チューブレスバルブを分解します。
下のU字型の部品はバルブコアを開けるためのミニ工具です。バルブに1個ずつついてきます。
とりあえず何も考えずに挿してみました。
しかし、奥まで入っていきません。
バルブの内側がリム面から浮き上がってしまっています。
原因はコレ。
Oリングは外してから挿すようですね。
今度はしっかりとハマりました。
外したOリングはバルブの下側から取り付けます。
リムナットを留めていきます。
通常のクリンチャータイヤではリムナットはあってもなくても大丈夫なのでつけていない人も多いと思われますが、チューブレスに限ってはこのナットは絶対に必要です。
このリムナットとゴム製のOリングによってバルブ穴からの空気漏れを塞き止めることができます。ナットがなければ空気は漏れ放題です。
タイヤ取り付け
次はタイヤをはめます。
TLRタイヤがTLタイヤより優れている大きな違いはこのタイヤのはめやすさにあります。
TLタイヤはとにかくはめにくいです。
タイヤとリムの相性も大きく関わってきますが、力自慢の男性が握力をボロボロにしながらもタイヤは全然はまらない・・・なんて話をよく聞きます。
TLタイヤはシーラント不要なだけあって、リムとタイヤがぴったりくっつくように作られているのでタイヤサイズもギリギリになっているというわけです。
しかしTLRタイヤはシーラントに頼ること前提の作りなので、タイヤとリムの隙間にはそこそこの余裕があります。
実際に、exposure 30は普通のクリンチャータイヤと同じ感覚ではめることができました。
むしろクリンチャーよりも楽だったくらいです。タイヤレバーすらほぼ不要でした。
ビード上げ
ついにやってきました。今回のメインイベント、ビード上げです。
ビード上げとはタイヤに空気を入れていき、タイヤのビードをリムの溝にはめる作業です。
クリンチャーでは何も考えずに空気を入れるだけでパンッ!とビードが上がる音を聞くことができますが、チューブレスではそんなに簡単にはいきません。
チャレンジ① そのまま空気を入れてみる
まずは、無理とわかっていますが一応、何もせずにただ空気を入れてみます。
わかっていたことですが、ビードが上がる気配どころか全く空気が溜まりません。
ポンプで入れた空気が、そのままバルブ付近の隙間から抜けていく音が聞こえます。
チャレンジ② チューブドにしてビードをあげてからチューブを取り除く
ならばと次の作戦です。
今度はリアタイヤでやってみます。
リアタイヤにはチューブを入れたままの状態にして、チューブに空気を入れていきます。
小気味よくパンッパンッ!というビードが上がる音が聞こえたら、
バルブの周りだけビードを落として、チューブを引き抜いていきます。
つまり、チューブの空気圧で一度ビードをあげておいて、その後チューブレスバルブに交換するという作戦です。
チューブを引き抜く段階で、タイヤ全周の片側のビードはどのみち落とすことになりますが、
片側のビードは上がったままの状態で空気を入れることができます。
果たして!
何も変わらず。
片側の隙間からヒューヒューという空気の抜ける音がして、ビードは全く上がりません。
小手先だけの浅知恵は通用しないようです。
チャレンジ③ 石鹸水でビードを滑らせる
ならば一般的な対策をしてみましょう。
使うのはこちらのアイテムたち。
石鹸、熱水、容器、タオルです。
まずは石鹸を溶かして石鹸水を作ります。
石鹸は家に有り余っているのでワイルドに全部入れてしまいます。
熱水なのですぐに溶けます。
この石鹸水はビードに塗りつけて滑りをよくすることで、ビードを上げやすくするという目的で用います。
ですので、石鹸水の石鹸濃度はできるだけ高くなるように溶かします。濃度が薄いと泡だらけになってしまいます。
ちなみに、石鹸水ではなくチューブレスタイヤ用ビードワックスというしっかりとした商品も売られています。
GIANTから1000円程度のお手頃なものが販売されていますので、気になる方はそちらで。
(最悪、洗剤でも代用できると思いますが、下手なもの使うとリムやタイヤを腐食する可能性もあるのでそこは注意した方がいいです。)
ビードに塗り込んでいきます。
塗り終わったところで、再度ポンピングします。
ホイールを立てて空気を入れると地面と接している部分のタイヤが歪むため、そこから空気が漏れる
ということに気がついたので、今回はホイールを地面に倒して空気を入れてみます。
しかしビードは全く上がらず。
空気が入りすらしないです。入れたそばから抜けていく状態。
もっと濃くした石鹸水をより大量にビードに塗り込んでみました。
もうタイヤも手も石鹸でヌルヌルです。
頼む!と念じながらハイスピードでポンピングをしますが、
全然ダメ。全く手応えがありません。
チャレンジ④ リムの内溝にも石鹸水を塗り込む
今度はリムの内側にも石鹸水を塗ってみます。
もう全部がヌルヌルです。タイヤとリムの間の摩擦を極限まで低くします。
しかし、変わらず。
これ無理なんじゃ・・・?という思いが頭を巡りますが、最終手段をここで使うことにします。
チャレンジ⑤ シーラントを事前に入れてから空気を入れる
最終手段、シーラントを入れてから空気を入れます。
ビードをあげてからシーラントを入れる、という方法もありますが、今回はむしろビードを上げるためにシーラントを入れるという使い方をします。
チューブレスレディではこの方法のほうが推奨されているという話を聞いたので、試しにやってみることにしました。
しかし、これで失敗したらもうタイヤを迂闊に付け外しできなくなります。予備を用意していないので、
タイヤの付け外しでシーラントが漏れてしまうと、またシーラントの買い直しです。
まず、シーラントを入れるためにバルブコアを開けます。
(タイヤを外して側面から入れるという方法もありますが、バルブコアを外す方がの方が楽でした。)
バルブコア工具を取り付けて、くるくると回していきます。
バルブコアが外れました。
ここにシーラントを入れていきます。
STAN'Sのシーラントは容器の先端が細くなっているので、容器のまま直接入れることができるという点がとても便利です。
通常は注射のシリンジを用いるなどの工夫が必要です。
さて、空気を入れてみます。これでダメならもうタンク付きポンプを買うしかないです。
お?
何か今までとは違う空気の音がします。
今までは、バルブのすぐ近くのタイヤの隙間から空気がそのまま抜けていく音がしていましたが、今度はタイヤ全体から空気が漏れる音がしています。
吹き出るシーラント。
よく見るとタイヤのそこかしこでシーラントが吹き出しています。
つまり、タイヤ全体に空気が行き渡り初めています!
そしてだんだんと空気漏れの音が小さくなっていきました。
シーラントが隙間をどんどん埋めていっているようです。
これは好機と一気にポンピングをします。
そして全力でポンピングすること15秒後・・・パァンッ!パァンッ!
と小気味よくビードが上がる音がしました。
やりました・・・。
これが正解だったみたいですね。
急いでタイヤを空転させてシーラントをタイヤ全体に行き渡らせます。
ビードをあげる最初のときはタイヤの上限空気圧まで入れるべきらしいので、今回はexposure 30の上限気圧である6.2 barまであげてみました。
シーラントの汚れをとる
ついにビード上げに成功しました!
あとはシーラントが固まるのを待つだけですが、その間にやっておくことがあります。
シーラントは天然ゴムなので、固まるとホイールやタイヤにベタベタとくっついて剥がれなくなります。
そこで登場するのがコレ。
100均のネイル剥がし、つまり除光液です。
要はアセトン系溶剤なので、有機系の化合物を溶かして洗い流すことができます。有機合成実験でお世話になったなぁ・・・。
この通り綺麗に落ちました。
同様に、剥がれにくいシールなんかもイチコロです。
ただ、付けすぎや拭き取り不足だと変色の可能性もあるので、なるべく慎重に使うようにしましょう。
タイヤ交換後のインプレ
さて、シーラントも固まったので細部をみていきましょう。
つるっとしていてなかなかに似合っています。
6.2 barも入れるとタイヤはかなりカチカチです。28Cのロードバイクと大差ありません。
全体像。
やはりサイドスキンにして正解でした。
グラベルロード感も残しつつ、ハイエンドのチューブラータイヤのような高級感も漂います。
固まったシーラントはタオルでさっと一拭きします。
取れなかった部分はタオルに除光液を染み込ませてこすって落とします。
G-ONE BITE との比較。
40Cと30Cはやはりそれなりに印象が変わります。
レビューのために実走しにいこう
何と言っても気になるのはその乗り心地です。
とその前に、パッキングの準備をして走り出すことにします。
この100均の保護フィルムをフレーム保護フィルムとして巻くことにします。
以前の記事↓
で見つけたように、GRAILには、硬く分厚い作りをしている純正のフレーム保護フィルムが付属してきますが、今回は気兼ねなく使い捨てできる100均のフィルムを使うことにします。
フレームバッグと擦れる部分を保護します。
さて、準備は整いました。早速走ってみます。
私の住んでいる地域はまだ残雪の季節ですが、道路はコンクリートが出ていたので思う存分試走することができました。
まず、圧倒的に乗り心地がいいという感想でした。
30Cでありながら地面を転がるフィーリングが、40CのG-ONE BITEとさほど変わらない心地よさで大変驚きました。
今までチューブそのものの固さというものがどれだけバッド・ステータスだったのかが実感できます。
チューブレスレディタイヤはタイヤの内部全てが空気(とシーラント)なので、エアボリュームの量がクリンチャーと段違いに多いことになります。
このエアボリュームが振動や突き上げを軽減しつつ、路面を追従してグリップすることに生かされているのを感じました。
別の角度から何枚か。
転がり抵抗の少なさにも驚きました。
28Cのロードバイクと遜色ないと言える転がりの良さで、タイヤが太いことによるパワーロスを全く感じさせません。
前から。
フォークとのクリアランスも空きすぎず、といった具合です。
グラベルロード感は減ってしまいましたが、ロードレーサーというほど細くもなく、十分アドベンチャーライクな見た目を残しています。
気になる1日後のエア抜けは?
タイヤ交換から一晩明けてタイヤの空気圧を確認したところ、フロントから1 bar、リアから3 barほど空気が抜けていました。
もともとTLRやTLはこの程度のエア抜けが起こりうるものなので、まあしょうがないかといった感想ですが、流石にちょっと抜けすぎなような気がします。
よりシーラントをうまく塗布すれば空気圧の低下はもっと防ぐことができるはずだと思います。
もうこの点に関してはもう少し練習が必要のようです。
おわりに
ビード上げには相当苦労させられ、まだエア抜けの対処などの課題は残りますが、結果的に今回のタイヤ交換は大満足な結果になりました。
想像していた通りの乗り心地の良さに、文句なしといった感想です。
それでは記事をここまで読んでくださった全ての皆さんに、
ありがとうございます。またお会いしましょう。
(追記: 2019/12/23)
どうやら2020年モデルから、このWTB exposureというタイヤは廃盤になるようです。
そして34cモデルのみ"Expanse"(エクスパンス)と名前を変えて販売継続します。
当ブログでも触れた「サイドの薄さ」のせいかチューブレス時の機密力が弱く、評判もよくなかったのかなと思っています。